2026年04月05日 / ライフスタイル

赤ちゃんにスマホは悪なのか? 9カ月の赤ちゃんの72%が毎日スクリーンを見る時代 ― 「見せるな」では解決しない育児の現実

赤ちゃんにスマホは悪なのか? 9カ月の赤ちゃんの72%が毎日スクリーンを見る時代 ― 「見せるな」では解決しない育児の現実

赤ちゃんの“日常”になったスクリーン

「赤ちゃんに画面を見せるのはよくない」。そんな言葉を聞いたことがある親は多いだろう。だが現実は、理想論だけでは語れない段階に入っている。英Education Policy Institute(EPI)が、英政府の長期縦断研究「Children of the 2020s」のデータを分析したところ、9カ月の乳児の72%が毎日何らかのスクリーンに接していた。平均時間は1日41分。もはやスクリーンは、一部の特殊な家庭の話ではなく、乳児期から広く入り込んでいる生活インフラになっている。

この数字だけを見ると、「やはり危険だ」「親の怠慢ではないか」と短絡的に考えたくなるかもしれない。けれど、同じ分析が示しているのは、もっと複雑な実態だ。大半は「スクリーンなし」か「1時間以内」に収まり、3時間を超える子は2%という少数派だった。つまり、議論すべきなのは“乳児のほとんどが毎日何かしら見ている”という事実と、“極端な長時間使用は少数だが無視できない”という両面だ。


兄弟の有無や家庭の状況でも差が出る

今回の分析で印象的なのは、スクリーン利用が単なる親の意識の問題ではなく、家庭構造と関係していることだ。特にひとりっ子は毎日スクリーンに触れる可能性が高く、記事ではその割合が80%に達するとされている。また、ひとり親家庭の乳児は1日平均47分、親が2人いる家庭では39分と差が出た。収入と“見るかどうか”の間に明確な傾向は見られない一方、見る子の中では所得水準と視聴量の関連が示唆されている。

ここから見えてくるのは、「良い親なら見せない」「意識が低いから長く見せる」といった単純な道徳論の危うさだ。ワンオペに近い環境、家事やきょうだいの世話、保護者自身の疲労や孤立。そうした現実の中で、数分でも手を離したい場面は確かにある。スクリーン時間の問題は、子どもの発達だけでなく、育児を支える社会の余裕や家庭の可処分時間ともつながっている。これは親個人を責めるだけでは解決しない。


本当に問題なのは「見ること」そのものなのか

元記事が重要なのは、スクリーンを一律に“悪”と決めつけていない点だ。EPIのタミー・キャンベル博士は、議論を「どれだけ見たか」だけでなく、「何を」「なぜ」「どう使ったか」へ移すべきだと述べている。親子で一緒に見て話しかける双方向的な使い方なのか、それとも受け身で長時間流しっぱなしなのか。この違いは大きい。

実際、米国小児科学会(AAP)も、2歳未満ではスクリーン利用を非常に限定的に考える一方で、家族とのビデオ通話のような相互的な使い方や、保護者が一緒に見て内容を説明する視聴は別の意味を持つとしている。AAPは、幼い子どもは大人とのやり取りや現実世界の探索から最もよく学ぶが、もし視聴するなら高品質な内容を保護者と一緒に楽しむ形が望ましいとしている。

つまり、問題は「画面を見た」という事実だけではない。受け身の長時間視聴が、会話、外遊び、読み聞かせ、歌、模倣遊びといった発達の土台を押しのけてしまうことが問題なのだ。スクリーンが主役になると危ういが、親子のやり取りを補助する脇役であるなら、見え方は変わってくる。

3時間超になると、見えてくる“置き換え”の影

EPIの分析では、1日3時間を超えるスクリーン利用の乳児は、外出、読み聞かせ、歌などの活動に日常的に参加している割合が低かった。たとえば毎日外出する割合は、スクリーン時間ゼロの乳児で80%、2時間以内では76%、3時間超では60%まで下がっていた。読み聞かせも、2時間を超えたあたりから低下が見られる。ここで注目すべきは、少しでも見せることが即アウトなのではなく、長時間化したときに他の経験を押しのける“置き換え”が起きやすいことだ。

この点は、今年1月に公表された2歳児の政府関連研究とも響き合う。2歳児では98%が毎日スクリーンを見ており、平均は127分。最もスクリーン時間が長い層は、34語の語彙テストで平均53%の単語しか言えなかったのに対し、最も少ない層は65%だった。研究は因果関係を断定していないが、長時間のスクリーン利用と語彙の少なさには相関があると報告している。

ここで大事なのは、数字をセンセーショナルに受け取るのではなく、研究が何を言っていて何を言っていないかを見極めることだ。研究は「スクリーンが直接、語彙を奪った」とまでは証明していない。家庭の会話量、保護者のメンタルヘルス、生活の逼迫、家での遊び方など、複数の要因が絡み合っている可能性がある。だが同時に、「長時間の受け身視聴は軽く見ないほうがいい」という警鐘としては十分重い。


WHOは厳しく、現場はもっと複雑

WHOは、1歳未満の乳児にはスクリーン時間を推奨せず、1歳児も原則として非推奨、2歳以上でも1時間以内が望ましいとしている。代わりに求めているのは、床での遊び、読み聞かせ、十分な睡眠、身体活動だ。ガイドラインとしては非常に明快で、発達の土台が“対面のやり取り”にあることを強く打ち出している。

ただし、現場の親たちが直面しているのは、ガイドラインの正しさを知らないことではない。むしろ知っているからこそ苦しい。仕事、家事、きょうだい対応、睡眠不足、孤独、病気、移動中の対応。理想を実行できない日がある。そのとき「見せてしまった」という事実だけが、親を責める材料になりやすい。今回の報道が反響を呼んだ背景には、この“知っているのに守れない苦しさ”がある。


SNS・親コミュニティで噴き出した本音

今回のテーマに対するオンライン上の反応は、大きく3つに分かれる。

1つ目は、「少し頼るのは現実的」という声だ。親向けコミュニティでは、「シャワーを浴びる間だけ見せた」「夕食を作る間だけ助けられた」「上の子が見ている番組に下の子が自然に触れるのは避けきれない」といった書き込みが目立つ。なかには「食事をとらせるために動画が必要だった」「後悔していない」とする声もある。こうした反応は、スクリーン利用が“娯楽”というより、育児の綱渡りの中での応急処置として使われていることを示している。

2つ目は、「罪悪感ばかり膨らむ」という声だ。Mumsnetでは、過去に幼児へ多くのスクリーンを見せてしまったことを振り返り、「いまだに罪悪感が消えない」「子どもの将来に影響したのではと考えてしまう」と語る投稿もある。ここには、研究結果そのものへの恐れだけでなく、現代の親が何をしても評価されにくいという空気もにじむ。スクリーン時間は、その不安の受け皿になりやすい。

3つ目は、「やはり長時間の受け身視聴は危ない」という慎重派の声だ。別のスレッドでは、「数時間ずっとTVやiPadに向かわせるのはさすがに問題」「境界線を作らないと習慣になる」といった意見も多い。一方で同じ場所には、「外遊びや読書、会話が十分にあるなら、少しのテレビを過度に恐れる必要はない」という声もあり、単純な賛否ではなく、“どの程度なら許容できるのか”を探るリアルな模索が続いている。

興味深いのは、どの立場の声にも共通しているのが、「完全禁止」よりも「バランス」への関心だという点だ。親たちは決して無関心ではない。むしろ強く気にしている。だからこそ、曖昧な不安を煽る見出しより、「長時間化しやすい場面はどこか」「何を置き換えているのか」「どうすれば親の負担を減らしつつ調整できるのか」といった実務的な情報のほうが必要とされている。


これから必要なのは“禁止”より“設計”

英政府は2026年4月、0~5歳向けの初のスクリーン時間ガイダンスを公表する予定だ。すでに2月にはエビデンス募集も行われており、政策としても「家庭にどう伝えるか」の段階に入っている。ここで重要なのは、親に罪悪感を追加する文書ではなく、現実に使える指針になるかどうかだろう。

たとえば、ガイダンスが本当に役立つためには、「1日何分まで」という数字だけで終わってはいけない。食事中や寝る前は避ける、つけっぱなしにしない、見せるなら短く区切る、見た後に会話や遊びへつなげる、子どもを“黙らせる道具”として常態化させない、保護者もスマホを見続けない――そんな行動レベルの提案が必要だ。EPIやAAPが示すのも、まさにこの方向性である。


親を責めるより、親子の時間を増やせる社会へ

乳児のスクリーン時間をめぐる議論は、結局のところ「子どもに何を与えたいか」という問いに行き着く。必要なのは、画面を見せた親を見つけて断罪することではない。子どもが会話をし、歌を聞き、絵本を読み、外に出て、誰かと目を合わせる時間をどう増やすか。そのために、親の時間と気力をどう守るかだ。

スクリーンは便利だ。ときに救いにもなる。しかし、赤ちゃんにとって世界を理解するいちばんの教材は、まだ人の顔であり、声であり、抱っこであり、繰り返される会話だろう。だからこそ結論は極端ではなくなる。少し見せたかどうかで自分を責めすぎる必要はない。けれど、長く任せきりにしていいわけでもない。育児に必要なのは「ゼロか100か」の正しさではなく、生活の中で人とのやり取りを主役に戻していく、小さな調整の積み重ねなのだ。



出典URL

  1. Independent(9カ月児の72%が毎日スクリーンに接し、平均41分、ひとりっ子や家庭構造による差、政府が4月に指針公表予定という内容)
    https://www.independent.co.uk/life-style/health-and-families/babies-children-toddlers-screen-time-b2938981.html
  2. Education Policy Institute(Independent記事の元になった分析。Children of the 2020sデータを用い、77%が「なし」または「1時間以内」、3時間超は2%などを提示)
    https://epi.org.uk/publications-and-research/babies-and-screentime/
  3. GOV.UK「Early years screen time and usage」(英政府が2026年4月に0~5歳向けスクリーン時間ガイダンスを公表予定であること、2月に証拠募集を実施したことの確認用)
    https://www.gov.uk/government/calls-for-evidence/early-years-screen-time-and-usage
  4. WHO「To grow up healthy, children need to sit less and play more」(1歳未満はスクリーン非推奨、1歳も原則非推奨、2歳以上は1時間以内など国際的な目安の確認用)
    https://www.who.int/news/item/24-04-2019-to-grow-up-healthy-children-need-to-sit-less-and-play-more
  5. American Academy of Pediatrics「Screen Time for Infants」(乳幼児は現実世界の探索や大人とのやり取りから学ぶこと、視聴するなら保護者と一緒に高品質コンテンツを使うべきという補足)
    https://www.aap.org/en/patient-care/media-and-children/center-of-excellence-on-social-media-and-youth-mental-health/qa-portal/qa-portal-library/qa-portal-library-questions/screen-time-for-infants/
  6. GOV.UK「Children of the 2020s: second survey of families at age 2」(2歳時点の政府関連調査全体の入口。スクリーン時間、言語発達、家庭環境などの報告書一覧)
    https://www.gov.uk/government/publications/children-of-the-2020s-second-survey-of-families-at-age-2
  7. GOV.UK PDF「home learning environment and screen time at age 2: research brief」(2歳児のスクリーン時間と家庭学習環境、発達との関連は相関であって因果確定ではないことの確認用)
    https://assets.publishing.service.gov.uk/media/695fc42241ddb40d13f76527/COT2020s_-_home_learning_environment_and_screen_time_at_age_2_-_research_brief.pdf
  8. Guardian記事(2歳児の高スクリーン群は語彙テストで53%、低スクリーン群は65%、98%が毎日視聴、因果ではなく相関だとする報道)
    https://www.theguardian.com/society/2026/jan/11/excessive-screen-time-limits-vocabulary-of-toddlers-experts-warn
  9. Mumsnet「If you let your under 1 have screen time, do you now regret it?」(親コミュニティでの反応例。“少しなら現実的”“後悔していない”“上の子がいると避けにくい”など)
    https://www.mumsnet.com/talk/parenting/5337408-if-you-let-your-under-1-have-screen-time-do-you-now-regret-it
  10. Mumsnet「Screen time long term guilt」(“見せすぎたのでは”という長期的な罪悪感の具体例として参照)
    https://www.mumsnet.com/talk/parenting/5014710-screen-time-long-term-guilt
  11. Mumsnet「To have massively failed my toddler (screen time)」(“長時間は心配”と“バランスが大事”に分かれる議論の具体例として参照)
    https://www.mumsnet.com/talk/parenting/4529960-To-have-massively-failed-my-toddler-screen-time?flipped=1&page=1